俳句教養講座

編者のことば

『俳句教養講座』のススメ 片山由美子

片山由美子

 この講座は、つぎのような俳句実作者に薦めたい。
・現代俳句と古典は別もの。芭蕉を知らなくても実作に支障はないと思っている人。
・七夕はなぜ秋なのか疑問に思っている人。
・題詠というのはそもそも何か。いつから行われてきたのかを知りたい人。
・「切れ」とは、何から切るのかを考えたことがない人。単なる間だと思っている人。
・「切れ」は上五がもっともだいじだと思っている人。
・取り合わせるものは遠ければ遠いほど面白い。つまり、俳句は二物衝撃だと信じている人。
・写生こそ俳句であると思っている人。
・芭蕉の「古池や」の句をどう読んだらよいか分からないという人。
 いくつかは心当たりがある、という人は案外多いのではないだろうか。一つでも該当したら、講座のどこかを読んでみてほしい。必ず目から大きな鱗が落ちるはずである。編集に当たった私自身、きわめて多くのことを学んだ。

古典と現代との架橋に…… 谷地快一

谷地快一

 大学のゼミで出合った連句(俳諧の連歌)の世界に魅せられて、詩人気取りの青年期と訣別した。やがて「俳諧を研究するなら、俳句を作らなければダメ」と誘われ、俳文学の研究とは別に句会にも精を出すことになる。それから三十数年が過ぎたが、研究の場で実作が話題になることはなく、句会で近世俳諧に話がはずむこともまれであった。俳文学会に入会する俳人がいても、明治時代と江戸時代をまたぐ問題提起の不足ゆえに、いつしか足が遠のいてしまうように思われた。
 だから『俳句教養講座』を刊行すべく、平成17年に始まった片山・筑紫・宮脇三氏との勉強会は刺激的で、宿題を出したり出されたりする中で、ふいに小鳥が飛来するような至福の時間を何度も味わった。
 昭和25年に結成された俳文学会は、それまで棲み分けて来た俳句と雑俳を連歌や俳諧の流れに位置づけ、句作への渇きと研究への渇きを一体化しようという挑戦であった。この『俳句教養講座』がそうした古典と現代との新しい架橋になることを夢みている。

教養のすすめ 宮脇真彦

宮脇真彦

 俳句雑誌といえば戦前の改造社「俳句研究」(昭和9年〜19年)を思い出すように、俳句講座といえば同じ改造社の『俳句講座』全10巻(昭和7年〜8年)を思い出します。これは、当時著名な俳諧研究者と実作者が協力してさまざまな観点から俳句を論じたシリーズでした。この時代、一般社会にもアカデミックな雰囲気があふれ、アカデミアも実社会への関心にあふれた時代であり、研究者と実作者の協力が抵抗なく促された時代でした。戦後60年経った今、これらは極端なほど分離し、知的批評のない実作と、実作へのつながりのないこまごまとした課題の研究に向かいかねない状態となっています。季語の問題、切れの問題、ジャンルの問題、俳句性の問題は両者の協力がなくては明らかにすることができないはずです。今回のシリーズを「教養」と銘打ったのは、いたずらに知識や経験を誇ることでなく、知に裏打ちされた実作を可能とする講座としたいと考えたからです。

詩の言葉に関心のある読者へ 筑紫磐井

筑紫磐井

 俳句は、なんといっても短い詩である。短いがゆえに、言葉はさまざまな働きをして、詩的時空を立ち上げてくる。17音の日本語が、どんなメカニズムによって詩的世界を形作るのか―、その一点について、いろいろな観点から考えてみたのが、この講座である。
 俳句の実作者にとっては、自分の言葉を意識的に使うための武器ともなりうる理論的背景を提供してくれるだろうし、また研究者にとっては、自身の関わっている研究対象へのアプローチの指針として、さらなる研究の深化を促すものとなるにちがいない。だが、それ以上に、俳句の言葉に関わる様々な問題を論じたこの講座は、いままで俳句とあまり関わりのなかった一般の読者に、詩の言葉についての理解を、さらには日本語の可能性を示すことになるだろう、と期待している。俳句は、その短さによって、日本語を鍛え、文学の裾野を押し広げ、ひいては日本の文化を形作ってきたからである。

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深く俳句文化を捉えるための基本的図書

俳句はいかに作り、いかに読むか。基本の基本を振り返る。

俳句教養講座 第一巻俳句を作る方法・読む方法

編:片山由美子 谷地快一 筑紫磐井 宮脇真彦

目次
はじめに 宮脇真彦
【1】俳句を作ること
  • 俳句の作者 山下一海
  • 古典詩歌における「わたくし」 宮脇真彦
  • 俳句に何を詠んできたか 仁平勝
  • 和歌・俳諧(古典)の題詠 渡部泰明
  • 短歌の題詠 今井恵子
  • 俳句の題詠 本井英
  • 〈物〉を詠むということ 藤田真一
  • 近世絵画に見る写生 佐々木丞平
  • 写生の詩学―-美術から文学へ 松井貴子
  • 俳諧における虚構と現実――「老が恋」と「秋の哀」をめぐって 玉城司
  • 俳句における虚構と現実 中岡毅雄
  • 挨拶・即興の詩学――時・場・もの 堀信夫
  • 挨拶・即興の詩学――俳句の場合 井上弘美
【2】俳句を読むということ

選者という読者――俳諧を中心に 佐藤勝明
選者という読者――高浜虚子を中心に 片山由美子
俳句的ということ 谷地快一

  • 「古池や蛙飛こむ水の音」をめぐって
  •  はじめに 宮脇真彦
  •  幕末・明治期の解釈 越後敬子
  •  「山吹や蛙飛びこむ水の音」 深沢眞二
  •  「蛙」の伝統と革新 楠元六男
  •  「古池」とは何か 矢島渚男
  • 俳句における批評の役割 高柳克弘
  • 誤読の俳句史 櫂未知子

定価(税込5%):2400円
四六判 ISBN978-4-04-621471-3

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俳句の型とレトリック。俳句とは何かを和歌以来の伝統のなかで考える。

俳句教養講座 第二巻俳句の詩学・美学

編:片山由美子 谷地快一 筑紫磐井 宮脇真彦

目次
はじめに 宮脇真彦
【1】 定型がもたらすもの
  • 五七五という装置 仁平勝
  • 切字の詩学 川本皓嗣
  • 俳諧における切字の機能と構造 藤原マリ子
  • 俳諧のことばとイメージ 楠元六男
  • 類句と類想――芭蕉を中心に 母利司朗
【2】俳句のレトリック
  • 俳諧のレトリック――余情・やつし・本歌取り 尼ケ崎彬
  • 俳句における文語の問題 山西雅子
  • 短歌における文語の問題 安田純生
  • 俳句における引用 三村純也
  • 俳句と漢詩文 日原傳
  • 取合せの詩学 谷地快一
  • 前書の機能 金田房子
【3】季語・名所・無季
  • 地名がもたらすもの 鈴木貞雄
  • 季語と季感 筑紫磐井
  • 無季俳句をどう読むか 櫂未知子
【4】俳句とは何か
  • 俳味と滑稽 中森康之
  • 俳諧の余情――中興期を軸として 谷地快一
  • 和歌の思想――俳句を考えるために 錦仁

定価(税込5%):2400円
四六判 ISBN978-4-04-621472-0

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俳句以外の文芸・文化との関係。社会のありようを含めて俳句を見渡す。

俳句教養講座 第三巻俳句の広がり

編:片山由美子 谷地快一 筑紫磐井 宮脇真彦

目次
はじめに 筑紫磐井
【1】他ジャンル文芸との交響
  • 現代詩と俳句 藤井貞和
  • 短歌と俳句――俳句らしさを考える 三枝
  • 川柳・雑俳と俳句 小池正博
【2】様々な俳句文化様

日本文化における「付合」の意義――あしらいの心 宮脇真彦
「見立て」「やつし」という方法 加藤定彦
娯楽としての俳句――面白さの駅伝組織 福永法弘

【3】季節という枠組み
  • 季寄・歳時記という書物 寺島徹
  • 明治歳時記――太陽暦受容の問題点 越後敬子
  • 類題句集の世界――俳諧的アンソロジー 東聖子
【4】媒体と場
  • 俳句ジャーナリズム 筑紫磐井
  • 句集 岸本尚毅
  • 撰集・句集 深沢了子
  • 奉納・法楽・追善 綿抜豊昭
  • 短冊・懐紙・画賛・一枚摺 伊藤善隆
【5】時代・社会と未来・現代
  • 新派・新傾向・自由律・新興・前衛 秋尾敏
  • 時事・社会性・風土 高野ムツオ
  • 俳句の国際化――海外詠と外国語俳句 星野恒彦
  • 俳句の著作権問題 筑紫磐井

定価(税込5%):2400円
四六判 ISBN978-4-04-621473-7

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